飾り罫

ないしょ(普及版)

  • 伊藤茂次著
  • 外村彰編

ないしょ普及版

  • 文庫判 
  • 並装 糸かがり
  • 本文416頁
  • 表紙・扉画  滝田ゆう
  • 頒価1525円(税・送料別)
  • ないしょ(限定版)はこちら

[本書の内容]
 全97篇収録
 跋   川本三郎 「かいしょなし」の悲しみ
 再録 天野 忠  ないしょの人
      大野 新  一篇の傑作をのこしたアル中詩人
 解説 外村 彰  伊藤茂次(もじさん)伝
 写真 小幡英典  裏辻の影



      ないしょ

女房には僕といっしょになる前に男がいたのであるが
僕といっしょになってから
その男をないしょにした
僕にないしょで
ないしょの男とときどき逢っていた
ないしょの手紙なども来てないしょの所へもいっていた
僕はそのないしょにいらいらしたり
女房をなぐったりした

女房は病気で入院したら
医者は女房にないしょでガンだといった
僕はないしょで泣き
ないしょで覚悟を決めて
うろうろした

ないしょの男から電話だと
拡声器がいったので
女房も僕もびっくりした
来てもらったらいいというと
逢いたくないといい
あんたが主人だとはっきりいってことわってくれというのである
僕はもうそんなことはどうでもいいので
廊下を走った
「はじめまして女房がいろいろお世話になりましてもう
  駄目なんです逢ってやって下さい」
  と電話の声に頭を下げた
女房はあんたが主人だとはっきりいったかと聞きわたし
  が逢いたくないといったかと念を押しこれで安心した
  といやにはっきりいうのである
僕はぼんやりした気持で
女房の体をふいたりした

「ないしょ」の私小説風味わいは心にしみ、とても感動しました。

つげ義春