- 忘れたステッキ
- 徳田秋聲俳句集
- 静かな場所の留守番
- 詩集 かひつぶりの卵
- 多喜さん漫筆
- 田端人
- 天上の櫻
- 梅
- ぼくのミステリ・コンパス
- 新編 嘉六集
- 道ばたの椅子 ぜんまい屋の北京
- 銭湯断片日記
- 寺島珠雄書簡集
- コンパス綺譚
- マンドレークの声
- 田端抄
- 高祖保集
- 悲しいことなどないけれどさもしいことならどっこいあるさ
- ル・アーヴルの波止場で
- 庭柯のうぐひす
- 多喜さん詩集
- 岡本喜八お流れシナリオ集
- 山田順子作品集
- もくはんのうた
- ぜんまい屋の作文
- したむきな人々
- 二月十四日
- 念ふ鳥 詩人高祖保
- 上司小劍コラム集
- 水の底
- 高祖保書簡集
- ないしょ(普及版)
- ないしょ(限定版)
- 馬込の家(普及版)
- 馬込の家(特装版)
- 幻の猫
- 稚兒殺し(普及版)
- 稚兒殺し(特装版)
- 藤澤清造貧困小説集 (普及版)
- 藤澤清造貧困小説集 (特装版)
- 宮崎孝政全詩集[私家版]
この無類の純良の人間は、彼がそこにいて、極度の近視鏡をかけ、頓狂な声でものを言うそのことだけであたりの空気はしずかになり、何かしら懐しげな人息のあたたかい、眼にも心にも和らいだものが自然にふんわりと彼をつつみ、彼を見る私をも包んでくれるような気がするのである。 天野 忠
忘れたステッキ 私のステッキは 私のものになつてから 私の詩の一部だつた それを京都のコルボウ詩話会の帰りに うつかりバスの中で忘れた 汽車に乗つて それも出るようになつてから気が付いた 竹の根ぶしの 握りの曲つたありふれたものだけれど 永いこと持つていたと思うと 愛着がある あのステッキは 私の泣いたことも よう知つているのだつた 汽車でいまさら しかたがないと思いながら 私はやつぱし地団駄踏まずにいられなかつた
滋賀県長浜の町で、小さな古本屋「ラリルレロ書店」を営んでいた詩人武田豊は、詩人仲間や町の人から、おっちゃんと呼ばれて親しまれた。ダダから出発し、素朴な抒情が温もるもの、社会悪に抗うものから、おっちゃんらしいとぼけたユーモアやメルヘンを交えたもの、郷土への思い溢れるものへ、その詩風を追って、長浜生まれの編者が編んだ選詩集。